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2010年12月

深緑野分さん『オーブランの少女』発表

GoShuです。

表題のことを書く前に、まず、今月の初めにWEB拍手をいただいた方にお返事です。
拍手ありがとうございます!レスが遅れて申し訳ございません。
作品、少しでも楽しんでいただけましたでしょうか?
復刊ドットコムさん
http://blog.fukkan.com/fukkanrepo/2010/12/post-a630.html
の話は、スタッフ間でも話題になってました。
私も、原書は買ったものの、途中までしか読んでませんので・・・ (T T)
たとえ原書で全部読んでも、池央耿さんの訳でも読みたいですし!
復刊ドットコムさん、よろしくお願いします!ですね!

さて。
東京創元社「ミステリーズ!」12月号が発売されたので、『黒後家蜘蛛の会贋作集』にシナリオを書いていただいた深緑野分さん作『オーブランの少女』を読みました。

この作品の存在を深緑さんからお聞きしたのは、「ミステリーズ!新人賞」の一次選考を通過した今年の6月初旬のことです。

通過のことをお聞きして、このようなメールの返事をお出ししました。

しかし、どこまで行くのか私も楽しみですねー。
よろしければ、また応募作を読ませてください。
ベストは、入選して誌上で読む、ですけども。

その後はこのブログにも何度か書いたとおり晴れて佳作受賞となり、半年を隔てて初めて読むことができました。
ずいぶん待ちましたが、「活字で読める」ということは文句なく喜ばしいことで、今回は「ベスト」の時を過ごさせていただきました。うれしいことです。

「オーブランほど美しい庭は見たことがない。」
という語り出しで始まる本作は、そのとおり、美しい庭を舞台にした、「少女だけの園」の物語です。
心身になんらかの病気や障害がある少女が集められたサナトリウム。厳格な館主の女性。美しい先生。喧嘩や悩みがありながらも、少女たちは平和な日常をその中で過ごしています。
しかし、そこは本当にサナトリウムなのか?
そんな中で事件が起こり……

閉じられた世界の中での少女の日常が何と言ってもうまいところで、印象に残ります。しかしもちろんそれだけではなく、後半のホラー要素も入ったサスペンスにはぐいぐい引き込まれて、ページをめくるのがもどかしくなります。
しかしそのサスペンスの中にも、前半の少女らしい感性は残っており、自然に推移していくのが素晴らしいところです。
ミステリ的要素ももちろん豊富にあり、伏線が回収されていく過程は快感があります。

審査員全員称賛もなるほど、という出来栄えでした。すばらしい。

仲間内でもあるし、ほめっぱなしでもかまわないとは思うんですが、ちょっと気になるところを挙げてみると、

・冒頭、漢字が多くて若干読みづらい。
・××が知っている情報と、少し前までは普通の生活者である△△が知っている情報に乖離がある。この乖離が自然となるような具体的なタイミングは史実としてありうるのか?
・××が○○にパンと水を与えるようにしたことが不自然に感じられる。たしかに最後はよくないが、それまではずっと良好な関係だったはずなのに。

ぐらいでしょうか。

しかし、それを差し引いてもこれは素晴らしい作品であると断言できます。
審査員桜庭一樹さんの「独特の世界観があり、悲しみと喪失感が音楽のように流れ続けて、体に、心地よい」という言葉が言いつくしていると言っていいでしょう。

付け加えるとするなら、この作品、小説というものへの強い思い入れというものが詰まっていると感じました。なかなか言葉では説明しにくいんですが、もう「小説」!なんですよ。
えらい昔のことになりますが、押井守が伊丹十三に『オンリー・ユー』を「映画じゃない」と評されて、反省発奮して『ビューティフル・ドリーマー』を作った、という話があったと記憶します。この2作、どっちも『うる星やつら』なんですが、たしかに見比べると違うんですね。どこがどうと説明はしにくいんですけど、たしかに『ビューティフル・ドリーマー』は映画だな、と映画に詳しくない私でも納得するのです。
それと同様に、『オーブランの少女』は「小説」なのです。小説書き、あるいはそれ以前に小説読みとしての魂や心意気を感じました。
そういったところも審査員に好評を受けた理由なんじゃないかな、と思うのです。

皆さまも、ぜひご一読いただければと思います!

ところでこの作品、贋作集収載の2編とは似ても似つきません。よーく読んだら類似がそこここにあると気付きはするのですが、もし作者を伏せたら同一作者と気づく人はほとんどいないでしょう。

そこは、深緑さんの幅広さを示すものでしょうね。

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